2025年4月号
我も人なり、彼も人なり
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陽の傾き 風の匂い 蕾の膨らみ 葉の輝き
すべてが春の訪れを告げています。
お元気にお過ごしでしょうか?
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淵野辺駅の周辺では、緊張した面持ちでスーツケースを引いて歩く家族連れを見かけます。新生活のはじまり。春の風物詩です。
東郊住宅社の店頭には県外ナンバーの車が停まり、店内では各地の方言が聞こえてきます。出会いと別れ、入居者の入退室が交差するタイミングです。
ひとり立ちの瞬間を迎えた新入居者の期待と不安が入り混じった感情を隠し切れない表情を見て、職責を再認識し、襟を正します。みんな、潔く前を向いた、無垢な目をしています。
一方、退室する入居者の巣立ちに直面すると、「不動産屋って、金八先生のような思いを抱く仕事だったんだよね」と、毎年思い知ります。みんな、すっかり凛々しくなりました。
金八先生といえば、数々の名言と共に今も語り継がれるほど社会現象になったドラマです。その中で、受験を目前に緊張している生徒に向けて金八先生が「彼も人なり、我も人なり」という言葉を贈るシーンがありました。
中国・唐時代の文人、韓愈の言葉に由来する慣用句のようで、ドラマの中では「周りも同じ受験生。他人にできることは、自分もできる。大丈夫。飲まれるな」といった励ましの言葉として使われていたのですが、いつしか私の中では「我も人なり、彼も人なり」と我・彼の順を入れ替えた上に、解釈を変えて記憶していたことに最近気が付きました。
「自分も人間、相手方も人間。自分に心があるように、相手方にも心が当然あるのだから、それを軽々しくぞんざいにするようなことがあっては決してならない」。ついつい自分の思いや都合を正当化して優先してしまわないように、戒めの言葉として心に留めていたのです。
さて、繁忙期のご報告です。おかげさまで、今年もたくさんのご縁を賜ることができました。ありがとうございます。オーナーの皆さまによるお力添えに心より御礼申し上げます。
今年は前入居者の退室が3月末~4月末と遅い物件が非常に多く、新入居者の皆さまには入居可能日までホテル等から通学していただくケースが例年よりも多くなってしまいました。そんな大変心苦しい状況にも関わらず、新入居者の皆さまは快くご理解ご協力くださり、「それでも東郊住宅社」と選んでくださったことに感謝しかありません。
そんな中、いつものように淵野辺近辺の物件情報をチェックしていると気になる現象がありました。今春に向けて建てられた新築物件、そして、初めての契約更新を迎えた築浅物件が3月半ばを過ぎても満室になる気配がなかなか見られなかったのです。弊社管理物件の中に建て替えで来春竣工予定の単身者向けの新築物件があるため、その動向を注視していました。
2024年秋~冬の竣工にも関わらず満室になっていない物件が散見され、中にはまだ1~2室しか入居が決まっていない物件もあるようでした。以下、一部ですが、国公立大学後期日程の合格発表開始日の3月20日時点の数字です。いずれも淵野辺駅徒歩10分圏内の物件で、賃料は低い順にA→B→Cとなります。
築2年で狭めの1Kである物件Aの方が、新築で広い1LDKである物件Cよりも入居率が高いです。また、今年の大学主催の不動産相談会来場者の中に、新築物件を内見した後、トーコーキッチンが使える築30年以上の弊社管理物件への入居を決めた人が複数名いました。
これは、5年以上前から兆候が見られた新築・築浅の単身者向け高額家賃物件の供給過剰が、建築費高騰や物価高による家賃上昇により顕在化したためと考えます。需給バランスが崩れているのにも関わらず、入居者が対価(満足)を感じられる適正値を上回っているのです。
新築だから高い家賃で貸したい、建築費が高くなったから高額家賃が設定できる大きな部屋にしたい、金利再上昇が心配だから早く回収したい。貸主の立場としては当然そう思います。
せっかくの一人暮らしだからキレイな部屋に住みたいけれども、物価高が続くので、少しでも出費を減らして、満足度の高い部屋に住みたい。借主の立場としては当然そう思います。
貸主としては、円安、トランプ政権復活、相互関税、未曾有の金融市場に懸念が募ります。一方で「対価が見出せない物件は選ばない」と借主からは突き付けられていると感じます。
我も人なり、彼も人なり。
物件を選び、入居を決めるのは、当然にして心ある「人」です。入居者が対価を見出す「何か」、健全な賃貸経営を実現させ得る「何か」を提供できるのは、私たち管理会社なのだと、その職責を改めて痛感した繁忙期でした。
引き続き頑張ります。
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